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第533話 決別 14-2

 さすがにその有様を聞いて舌打ちしてしまった。飲んでいる量もひどいがちゃんぽんにもほどがある。なにが一口なら平気だ。それだけ飲んでどうなるか考えなかったのだろうか。彼の迂闊さにまた苛々が募る。 「はは、あんまり怒んないであげてよ。なんか悩んでるぽかったよ。あ、それは聞いてないから安心して」 「それはどうも」  苛つきがさらに顔に出たのか、男はひらひらと手を振って笑うとおどけてみせる。  けれどエレベーターの到着音に背を向けようとした時、ふいに浴衣の袖を掴まれた。その手を見下ろしその手の持ち主に視線を向けると、にこりとした笑みを浮かべる。 「君たち、夕方この近くでキスしてたよね」 「……」 「やっぱりそういう関係なの? あ、俺しか見てないから」  食事の帰り道か。ひと気がないと思って油断していた。いや、人がいようがどうでもよかったというのが正直なところだが、面白半分で接触されるのが一番面倒くさい。それになんとなくこの目の前の男は嫌な予感がする。 「興味本位で近づかないでもらえますか」  あの時のを見ていたのであれば、偶然この人に声をかけたわけではないだろう。なにか意図があって近づいたはずだ。裏の見えない顔で笑う目の前の男に自然と視線がきつくなる。 「あは、そんな怖い顔しないで、その人も可愛いけど、俺が興味あるの君だし」  袖を掴んでいた手がゆるりとした動きで俺の手首を掴む。袖口から滑り込む指先に、思い切り顔をしかめると俺はその手を振り払った。

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