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第535話 決別 14-4
エレベーターが部屋の階に止まると、手を引いてそこからエレベーターホールに彼を引き出す。そしておぼつかない足取りの彼では部屋にたどり着くのは時間がかかり過ぎると判断し、俺は彼を抱き上げてさっさと部屋に戻ることにした。
「佐樹さん、水飲む?」
酔っ払ってほとんど意識のない彼をベッドに横たえて、布団を被せる。少し窮屈そうに身じろぎはしたが、そのうち枕の端を掴み彼はそこに顔をうずめて寝息を立てた。
「って、聞こえてないか」
なんでこんなことになったのかと思ったが、やはり俺が原因なのは明確だろうという結論に達した。素面で戻ってくる勇気がなくて飲めない酒に手を出したのだろう。しかしなんだってあの集団に混じっていくんだ。時々彼の気持ちがよくわからなくなる。彼はいつでも俺がなんでも知っているようなことを言うけれど、ほんとのところはわからないことだらけだ。
「そんなに顔を合わせるのが嫌だった?」
ベッドの端に腰かけて、眠る彼の髪を梳いて撫でれば、枕を掴んでいた手が俺のその手を掴んだ。ぎゅっと握られた手首をそのままにしていると、彼はもう片方の手を指先に絡めてくる。
「佐樹さん」
目が覚めたのかと思い顔を覗き込むが、瞼は閉じられたままで、どうやら寝ぼけているようだ。子供みたいにあどけない顔で眠る彼を見ていると、愛おしくて仕方なくなる。寝息を立てる唇に口づければ、繋がれた手にほんの少し力が加わった。
「ねぇ、佐樹さん。俺、いま結構な我慢を強いられてるって気づいてますか」
無防備に眠っているその姿。そしてその浴衣の襟元から覗く上気した白い肌は、俺の理性を揺さぶるには十分な威力だ。
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