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第536話 決別 15-1

 正直言ってそこはかとなく漂う色気に、気の迷いを起こしそうなほどの雰囲気はある。しかしだからと言って意識もなく、酔っ払って明日には記憶すらもないだろうと思われる相手を、いまどうにかしようという気持ちにはなれない。確かにその瞬間はいいかもしれないが、あとに残るのは絶対に虚しさだ。目覚めた時に自分しか覚えていないなんて、やりきれない。しかもそれが初めての行為ならばなおさらだ。 「まったく、どうしてくれるんだよ」  掴まれていた手をやんわりと解いて、また肩まで布団をかけてあげれば、再び規則正しい寝息が聞こえてきた。今夜は寝る気も起きないし、このまま傍にいると目の前にいるこの人に触れて、すべてを奪いたくなる。けれどそんな気持ちを彼にぶつけるわけにもいかない。仕方がないのでテーブルに置き去りにされて、汗をかいているビール缶に手を伸ばした。ビニール袋の中には三本ほど入っている。 「これだけじゃ酔えもしない」  それでも飲まずにいられない気分だ。そもそも泊まりで行くと言った時に少し嫌な予感はしていたんだ。しばらく一緒にいる時間がなかったので、その分だけ彼に触れていない時間も長かった。だからこそ傍にいれば触れたくなるし、抱きしめたくもなるし、キスだってしたくなる。その先だって、嫌がられることがなければしたいに決まっている。  けれど一緒に来て欲しいと言ってくれた純粋な気持ちは嬉しかったので、理性を総動員して挑む覚悟で来た。しかし彼のはしゃぎぶりと、その可愛らしさが俺の想像を遥かに上回っていて、こちらの理性はもはやボロボロだ。

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