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第537話 決別 15-2

「無自覚だから余計にタチが悪い」  自覚があるなんて言っていたけれど、一体どんな自覚があると言うのだ。とはいえ、いままで男と付き合うなんて経験があるわけがないのだから、女性と付き合うような緊張感を持ちにくいのは仕方ないことなのかもしれない。お互い好きな気持ちはあるが、彼の場合はどこか友達と恋人のあいだ的な感覚が強い。  もちろん触れればすぐに頬を染めるし、慌てた素振りを見せたりするし、ただの友達というわけではない。ちゃんと恋人と呼べる付き合いをしているつもりではいるが、なにかやはり彼と俺のあいだでズレを感じるのは、知識か意識の違いだろうか。それともやはり彼はあまり色事に興味がないのかもしれない。多分きっと一緒にいるだけで満たされてしまうタイプなのだろう。 「やっぱり全然足りない」  気を紛らわそうと、一気に煽ったビールはあっという間になくなった。苛立ち紛れに缶を握りつぶすと時計に視線を向ける。時間はすでに二十三時を過ぎた。しかしもう売店は開いていないだろうから、自動販売機にでも買いに行くかと立ち上がった俺の背後で、微かに物音が聞こえた。慌てて振り返ると彼がベッドの端に腰かけこちらを見ている。 「目が覚めたんですか? 気分は悪くない?」  まだ酔いでぼんやりしているのか、こちらの問いかけに答えはない。けれど視線はじっとこちらを見つめたままだ。黙ったままこうしていても仕方ないので、ゆっくりと傍まで近づいていくと、彼は立ち上がって俺に向かい腕を伸ばしてくる。いつもとは少し違う雰囲気に誘われるまま彼を抱きしめれば、俺の首元に絡んだ腕に力がこもった。

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