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第538話 決別 15-3
そしてなんの前触れもなく彼に口づけられた俺は、思わず目を見開き驚きをあらわにしてしまう。けれど驚いている俺などお構いなしに、彼は性急に唇を合わせて早く口を開けと言わんばかりに俺の唇を舌先で舐めてくる。
正直なにが起きているのかよくわからなかった。普段の彼なら絶対にこんな真似はしない。酔っ払ってどこかタガが外れてしまっているんじゃないかと、本気で心配になってきた。引き離そうとするたび力がこもる腕に冷や汗が出る。この程度の力ならば簡単に振り解くことはできるが、彼を無下に扱うこともできない。
「……ちょっ」
思わず言葉を発しそうになった隙をついて彼の舌が口内に滑り込む。微かなアルコールの味と、いつもより熱い舌の感触に一瞬くらりとした。これならば酔っ払って寝ていてもらっていたほうがまだマシだ。頼むから俺の理性を崩壊させるような真似だけはやめて欲しい。
「藤堂、いや?」
やっと離れた唇から紡がれた言葉はぽつりと小さく。こちらを窺うように見つめる潤んだ瞳と唾液で濡れた唇が、やたらと色香を放っている。通常こういうのは誘われていると判断してもいいのかもしれないが、状況が状況だけにうっかりでも手を出せないジレンマがある。
据え膳を食わぬはなんとやらと言われそうだが、やはりいまの彼は無理だ。ちょっとほろ酔いになったから、という程度ならいいかと思えるだろうが、明らかにこれは泥酔だ。
いまは少し寝て落ち着いているように見えるけれど、俺がいままで見てきた経験上、確実にこのあいだの記憶は寝ている状態と一緒で起きた時は覚えていない。
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