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第539話 決別 15-4
「嫌とかそういうのじゃないですよ」
「だったら、なんで逃げるんだ」
「に、逃げてもないです」
確かに若干後ろへ下がったのは認めるが、こうでもしないとどうとでもなれという気分になってしまいそうな自分がいる。でもそれくらい、いまの彼は色香が半端ではない。
「じゃあ、こっち来い」
ベッドに座りその隣を叩く彼に躊躇ってしまう。しかしずっとこのままでいるわけにもいかないのも確かで、仕方なく俺は意を決して彼の隣に腰を下ろした。すると隙間を埋めるかのように彼が近づいてくる。とっさに身を引いたが、甘えるみたいに肩にもたれかかってきた。
肩口に頬を寄せて満足そうに笑う顔は可愛いが、心臓が馬鹿みたいに速くなる。触れ合った場所から感じる熱に、焦りみたいな感情が込み上がってきた。これはなんとかして速くこの状況を脱さないといけない気がする。
「佐樹さん、眠くない?」
「眠くない」
「じゃあ、喉は渇かない?」
「渇かないから、どこかに行こうとするなっ」
逃げるように立ち上がりかけた俺の気配を察したのか、腰に両腕を回して抱きついてきた彼にため息が出る。勢いよくタックルをかまされてお互いベッドに倒れ込んでしまった。身体の上に重みを感じてひどく動揺している自分がいる。
これまでこんな場面に遭遇したことがなかったとは言わない。けれどこんなに感情が揺さぶられるのは初めてだ。大きな音を立てる心音に煽られるように気持ちが高ぶりそうになる。けれどその気持ちを俺は必死でなだめすかした。
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