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第540話 決別 16-1

 押し倒されているような状態にめまいがする。けれどしがみつくようにぎゅっと掴まれると、無理に引き離す気も起きず、なだめるように彼の背を優しく何度も叩いてあげた。胸元に頬を擦り付けて甘える仕草をする彼が本当に愛おしい。でも愛しいからこそ簡単な想いで流されて汚したくはない。  あの時だって本当はあそこまでするつもりはなかった。でも抵抗されないのをいいことに調子に乗ってしまったのだ。結果、後悔するものになったわけだが。 「佐樹さん、なんでお酒なんて飲んだんですか」 「……」 「顔を合わせづらかった?」  なにも言わない彼の髪を撫でてその身体を抱きしめた。きっとこの人のことだ、なにか一人でぐるぐると考え込んで、どうにもならなくなってしまったんじゃないだろうか。そう思うと罪悪感が胸に湧いてくる。 「俺が、悪かったですね」 「お前は、お前は悪くない。すぐになんでも自分のせいにするな」  突然腕を放し、そう言って勢いよく起き上がったと思えば、いきなり腰の辺りに跨がられた。それと同時に彼に言われた言葉など頭からすっ飛んだ。先ほどよりも身体に感じる重みがリアルだ。さらに乱れた浴衣の裾から覗く白い足が生々しくて、視覚的にも色々とヤバイ。 「佐樹さん、ごめん。お願いだから下りて」 「なんだその投げやり」 「ほんとにごめんなさい。お願いします」  機嫌を損ねたのか唇を引き結び、あからさまに眉をひそめられた。しかしただそれだけならいいが、俺の襟元を両手で掴み彼は揺さぶりをかけてくる。頼むから人の上で動かないで欲しい。

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