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第543話 決別 16-4
「なんですか多分って」
「別に、嫌じゃなかったから、少しびっくりしたって言うか……恥ずかしかっただけで、こういうことだろ?」
「え?」
目の前の出来事に思わず息を飲んでしまった。浴衣の胸元をくつろげた彼がこちらをじっと見つめ、俺の手を取ってその白い胸元にそっと当てる。ほのかな温かさとトクトクと脈打つ心臓の音がはっきりと手のひらに伝わり、さすがに俺もそのリアルさに顔が熱くなった。そして誘うようにさらに手を引かれて、その艶っぽさに思わず唾を飲み込んでしまった。
「ちょっと、待った」
慌てて肩を押して彼を膝から下ろす。ここまでくるともう限界だ。自分から仕掛ける分には色々とコントロールが効く部分はあるが、でもこれはさすがにまずい。元々開き直ると大胆な行動をしでかす人ではあるが、いまは酔っているせいもあって、無自覚で無駄に放たれている色気がプラスされている。
「あ、手でよかったら、するけど」
普段はそんなこと気づきもしないくせに、こんな時ばかり察しがいい。しかも少し恥じらうように目を伏せられて、こちらの心臓がもたない。
「余計なことはしなくていいですっ」
伸ばされた彼の手を遮り思いきり声を上げた俺を、首を傾げて見つめる視線にいたたまれない気持ちになってきた。これは不埒な俺への罰なのだろうか。これは試されているとかいないとか、そんな可愛い状況ではない。どうしたら目の前の彼は俺を許してくれるだろう。
この真っ白さが眩しくて、いっそ黒く染めてしまいたい気分にもなるが、多分きっとなに色にも染まらない人なんだろうとも思った。そして彼の傍にいる人間は、いつしかその身にあるどす黒さを洗われてしまうのかもしれない。
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