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第546話 決別 17-3
でも一度火がついた気持ちは止められなくて、唇を何度も重ねる。無意識に腰をすり寄せると、藤堂の表情はうろたえたような困惑に変わった。
自分でも変な方向に開き直ってしまっているのは、なんとなく頭の隅で感じてはいるけれど、どうしても抑えきれない感情の行き場がなかった。相手にしてもらないことが悲しくて、思わず泣きそうになったら慌てた藤堂に抱きしめられる。そしてため息交じりのキスをされた。
優しく触れるだけのキスは次第に深くなり、差し出した舌を絡め取られて、その行為に溺れるように藤堂にすがりつく。何度も何度もそれを繰り返すうちに、少しずつ心が満たされていく気がした。首筋や胸元を這う指先と唇、そして浴衣の帯を解かれる感覚に肩が震える。
落ちていた意識が浮上する瞬間、脳裏をよぎった映像に思わず叫び声に似た声が出た。弾かれるように思いきり身体を起こして、慌てて周りを見渡せば、窓から朝の柔らかい光が部屋の中に降り注いでいた。
「……いまの、夢? だよな?」
もそもそと布団を剥いで起き上がると、ついベッドの上で正座をしてしまった。下を向き確認をすれば、浴衣は乱れもなくしっかり着ている。しかし夢にしてはあまりにもリアルな気がして、鼓動が早くて顔が熱い。
「う、ってか……頭、痛い」
現実を取り戻してふと我に返ると、グラグラとする頭に激痛が走る。思わず頭を抱えてその場にうずくまれば、少し離れた場所から微かに物音が聞こえた。
「佐樹さん目が覚めたの? 二日酔い平気?」
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