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第547話 決別 17-4
片手に小さなビニール袋を下げた藤堂が寝室を覗くようにして顔を出す。どこかへ出かけていたのか、藤堂はもう私服に着替えていた。そんな彼の姿を見た瞬間、夢での出来事が頭に浮かび、一気に熱が顔に集中して焦りを感じる。
「もしかして、熱でもありますか?」
そんな僕を見て藤堂は心配そうな表情を浮かべて近づいてきた。
「な、ないっ」
額に触れた藤堂の手に心臓が跳ね上がる。そわそわする僕の様子に藤堂は不思議そうな顔で首を傾げた。まさかあんな夢を見たとは口が裂けても言えない。っていうか、本当に夢だったんだろうか。酔っ払って本気でなにかしでかしたんじゃないかと心配になってくる。
「藤堂」
「なんですか? あ、はいこれ、スポーツドリンク。二日酔いの時は身体に水分が足りてないからちゃんと飲んでくださいね。あとこっちは二日酔い用のドリンク剤」
「あ、うん」
手渡された飲み物を見下ろし、口にしかけた言葉が喉奥で止まってしまった。ベッドの端に腰かけ、こちらを見ている藤堂の態度は至って普通だ。いや、しかしなに食わぬ顔でこちらに隙を見せないのも藤堂だ。ここははっきりと聞かなくては駄目だろう。
「藤堂っ」
「どうしたんですか?」
いきなり声を上げた僕に腕を掴まれ、藤堂が目を丸くして驚きをあらわにする。突然迫るように近づいた僕に対し、若干藤堂は及び腰だ。
「き、昨日のことなんだけど」
「え? 昨日、ですか」
一瞬だけ藤堂の目が泳いだのを見て、急に胸の辺りがざわざわした。
なにかやってるかもしれないという不安が押し寄せてくる。あれは本当に夢だったのだろうか。
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