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第548話 決別 18-1
しばらく顔を見合わせたまま沈黙が続く。それはほんのわずかな時間だけれど、僕の心臓ははち切れそうなくらい大きく脈打つ。じっとこちらを見る藤堂の瞳からいまはなにも読み取れない。このまま黙ったままではいられなくて、意を決して僕は声を上げた。
「あのさ、お酒を飲んだのは記憶あるんだけど、そのあとが思い出せなくて。だからその、なにかやらかしてないかな、っと、心配になって」
「ああ、やっぱり覚えてないんですね」
ふっと息を吐くようにため息をつき、肩をすくめた藤堂に肩身が狭い思いがした。この呆れた雰囲気は絶対なにかやらかしたんだ。そう思ったら言葉より先に土下座をしてしまった。ベッドで正座をしていた僕は額がつくほど頭を下げる。
「なにしたかわかんないけど、悪い」
「いやいや、佐樹さん。なにしたのかもわからないのに、謝らないでください」
頭を下げた僕の髪を撫でる藤堂は深いため息をついた。
「でも、絶対に藤堂が困るようなことだろう」
「それはまあ、大いに困りましたけど。佐樹さんが心配することはさほどなかったので、大丈夫ですよ」
「さほどってなんだっ」
あまりにも微妙な言葉を耳にして、僕は勢いよく頭を上げてしまった。するとそれと同時に、髪を撫でてくれていた藤堂の手を自然と弾いてしまうことになる。しかしいまはそれどころではない。なにもないならまだしも、さほどってことは、少なからずはなにかをしたということじゃないのか。藤堂に詰め寄れば苦笑いを浮かべられた。
「正直言うと、酔っ払った佐樹さんに誘惑されて非常に困りました」
「ゆ、誘惑、って? も、もしかして、押し倒したってことはない、よな?」
寝覚めに見た夢らしきものを思い出し、さっと顔が青くなる気がした。
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