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第554話 決別 19-3

 けれど二人で暮らし始めたらやはり少しはなにか変わってくるような気がする。しかし藤堂が卒業するまでまだあと九ヶ月もあるのが現実だ。先はまだまだ長い。 「佐樹さん、ちょっと移動するけど水族館ありますよ」 「行く」  こちらを覗き込むその視線に緩みきった笑みを浮かべ、僕は勢いよく起き上がり笑っている藤堂に抱きついた。けれどすぐにはっと我に返り、抱きついた腕を解いて僕は少し後ろへ下がった。 「悪い」 「なんで謝るんですか」 「あんまりベタベタしないほうがいいんだろ?」  不思議そうに首を傾げられてしまったが、無防備に近づき過ぎると昨日言われたばかりだ。どの程度までが大丈夫なのかがわからないので少し戸惑ってしまう。けれどあまり藤堂を困らせるようなことはしたくない。 「うーん、まあ、確かに言いましたけど。そうやって避けられてしまうと、少し寂しくもあるんですよね」 「じゃあ、どうしたらいいんだ」  近づき過ぎるのもよくなくて、距離を置いたら寂しいとか言われては、どうしたらいいかわからない。思案する素振りを見せる藤堂の顔をじっと見つめたら、柔らかな笑みを浮かべてから僕の頭を優しく撫でてくれた。 「俺の理性が振り切れそうになる前にちゃんと伝えますので、普通にしていてくれていいですよ」 「振り切れそうな時って、こっちは全然わからない……って、あれ? もしかして」 「もしかして、なんですか?」  なんとなく気づいてしまった。これは僕にしてはなかなか聡いのではないかと思えることだ。

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