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第555話 決別 19-4
言いかけた言葉の続きを待っている目をじっと見つめ返し、僕は藤堂の両手を取った。
「藤堂が僕に対して敬語を崩さないのって、色んなことで気持ちが振り切れないようにするため?」
色々と問題があるんだと、そう言っていた言葉の意味がわかった気がする。普段の藤堂は穏やかで柔らかい雰囲気を醸し出している。でも実のところ短気だったり意外と気の強い部分があったりするのは、なんとなくだがいままで接して見てきて気づいていた。だから多分、僕に対してその部分が出てしまわないよう、言葉で一線引いて気持ちを保っているんじゃないだろうか。
「……」
「違う?」
返事のない藤堂の顔を覗き込むと、ふいと顔をそらされた。でもその横顔には赤みがさしていて、機嫌を損ねているとかではなく、これはきっと照れているのだろう。
ということは、僕の予想は当たりだ。
「やっぱりそうなんだ」
敬語で話されるのはほんの少し寂しいなとそう思っていたけれど、その理由がわかったら逆に嬉しくなってしまった。なに気ないことで僕を傷つけたりしないように、いままで色々と気遣ってくれていたのだろうか。そう考えればもういまのままでも構わない。
「少し敬語を使われるのは距離がある気がしてたけど、もう気にしない。どんな藤堂でも好きだぞ」
「……佐樹さん」
照れているような、戸惑っているような複雑な表情を浮かべる藤堂の頭を撫でたら、急に腕を引かれて強く抱きしめられた。身体が軋んでしまいそうなほどの強い抱擁に驚いてしまったが、それがなんだか愛おしくてそっと藤堂の背を抱きしめ返した。
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