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第557話 決別 20-2
「これいつ渡そうか、ずっと悩んでいたんですけど」
小さな呟きにも似た藤堂の声にますます意味がわからなくて、首を捻ってしまう。けれどふいに左手を掴まれて、指先にひんやりとした感触がする。
その瞬間、僕は黙って目を閉じていることができなくなって、勢いよく目を開いた。そして左手の薬指を見た僕は、言葉にならないほどの胸の苦しさを感じてしまう。それは痛みなどではなくて、言葉にもカタチにもできないほどの温かい想いだ。
「佐樹さんの誕生日は随分前に終わっているし、クリスマスはまだまだ先ですしね」
僕の薬指に収まるそれは、シンプルなデザインが刻まれたシルバーリングだ。それを馬鹿みたいにじっと見つめている僕の頭を撫でて、藤堂は左手を持ち上げその先に口づけた。
「いつ、こんなの用意してたんだ」
「佐樹さんの家に行くようになった頃ですかね。目に見えるもので繋ぎ留めたい気分になったんです。あ、もちろん普段は外していてくれて構いません。持っていてくれるだけでいいので」
両手で僕の左手を包んでやんわりと微笑んだ藤堂の顔を見たら、わけもわからず涙がこぼれる。突然泣き出した僕に藤堂は少し慌てた様子で、涙を拭うように頬を優しく撫でてくれた。
「ありがとう」
「いえ、そんなにいいものではないですけど」
「藤堂の気持ちが一番嬉しい」
プレゼントを欲しがるという心理は、正直あまりよくわかっていなかった。でも気持ちのこもったものをもらうと、こんなに嬉しいものなのか。僕は無頓着で気の利かないところがあるので、いままでプレゼントを贈るという行為は少なかった。
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