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第562話 決別 21-3

「うん」  まっすぐと向けられる母の視線に、自然と顔が下を向いてしまう。 「今回は一人じゃなくて、大事な人を連れて行くんだって、言ってたわよね?」 「……うん」  母の視線が隣に立つ藤堂をちらりと見る。  二人で旅行に出ることを母には伝えるつもりはなかったのだが、出際に僕は新幹線の切符を忘れかけた。その際に、一人分ではなく二人分ある切符に気づかれてしまったのだ。そしてどうして二人分あるのだと問い詰められて、藤堂と一緒に行くとは言えず、これで最後にするつもりだから、今回はいま大事な人と一緒に行こうと思うと答えた。  まさかこんなかたちでバレてしまうとは思わず、後悔なのか焦りなのかわからない感情が胸の辺りでざわめく。頭の中はぐるぐると思考が回り混乱して、言葉を探すがなにも見つからない。 「こんなところで立ち話もなんだから、とりあえずおうちに帰りましょ。詳しい話はそれからよ。優哉くんも、付き合ってくれるわよね?」  なにも答えない僕に肩をすくめると、母は藤堂に向き直った。隣に立つ藤堂はまっすぐに母を見つめ返す。 「はい、あの……荷物、持ちます」  問いかけに小さく頷くと、母の両手を塞いでいたものに藤堂は手を差し伸べる。そしてありがとうと呟くように礼を言った母からそれを受け取った。そんな中、僕は立ち尽くしたまま一歩も動けずにいた。  棒立ちのまま置物のように動かない僕にため息をつくと、母は先に改札を抜けていく。魂が抜けたみたいに身動きできずにいた僕は、藤堂に背を支えられて促されるように改札を抜けた。

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