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第564話 決別 22-1

 こんな状況で言い訳なんか思いつくはずもない。母の目の前にあるのは、僕と藤堂が二日間一緒に過ごしたという誤魔化しようもない事実だけだ。  うろたえてあたふたとしている僕を見かねたのか、隣に座っていた藤堂がほんの少し身を乗り出す。けれど口を開きかけた藤堂を見て、母は無言で首を横に振った。 「優哉くんはいいの。おばさんいま、さっちゃんに聞いてるから」  ぴしゃりとそう言い切った母に、藤堂はなにか言いたげな顔を見せたがすぐに大人しく口をつぐんだ。そして隣の僕を心配そうに見つめる。その視線に思わず縋るよう、僕は藤堂の服の裾を掴んでしまった。 「さっちゃん、それどうしたの」 「あ、えっと、これは」  母の視線の先に気づいて、僕は慌てて掴んでいた藤堂の服を離し、手を後ろへ隠してしまった。じっと見ていたのは間違いなく僕の左手の薬指だった。問いかけに対する言葉がうまく見つからない。そしてそんな僕の態度が気に入らなかったのか、母の眉間にしわが寄る。 「さっちゃん! どうして隠すの? どうしてここまで来てなんにも言わないの。優哉くんに失礼だと思わない?」  滅多に怒ることのない母が声を荒らげこちらをキッと睨むように見つめる。その言葉に胸がズキリと痛んだ。けれど藤堂を見上げたら、彼は――なんてことはない、大丈夫だ、と言わんばかりの表情で僕を見て微笑んだ。 「ごめん」  また僕は藤堂の気持ちに寄りかかろうとしてしまった。こんな風に誤魔化すことは、まっすぐに僕のことを思ってくれている藤堂のことを蔑ろにするのと同じだ。きちんと言葉にしなければ、そうでなければ藤堂の想いに報いることはできない。

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