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第567話 決別 22-4

 なんでなにも言ってくれなかったんだ。いますぐ昨日に戻って、昨日の自分に教えてやりたい。あんな失態をした日が藤堂の誕生日だったなんて、最悪過ぎる。 「うっかりって、このことか」  目の前のことに一生懸命になり過ぎて、うっかりと忘れることがある。そう言っていたのはこのことだったんだ。知らなかったとは言え、指輪をもらった時に誕生日という単語が出たんだから、そこで藤堂の誕生日がいつなんだろうかと気づくべきだったんだ。  それなのに僕は浮かれてそんな疑問すら浮かばなかった。自分の至らない部分が浮き彫りになって、僕はやるせない気持ちになってしまう。 「相変わらずさっちゃんはそういうところ、まったく駄目ね」  うな垂れた僕を呆れたように見つめて、母はため息をつく。こればかりは言い返す言葉はなくて、グサリグサリとなにかが胸に刺さる想いがした。 「当然だと思うけど、二人は真剣にお付き合いしてるのよね?」 「もちろん」 「そのつもりです」  僕と藤堂の声が重なり、ほんの少し驚いた顔をした母がふいに小さく笑った。そして――そう、と小さく呟いて珈琲を口にする。その反応に僕はなんとなく違和感を覚えて首を傾げてしまった。  自分が想像していたのは、もっとこう問いただされたり、ひどく反対されたり、別れるよう言われたりするんじゃないかと思っていた。だから母のあっさりとした反応にかなり肩透かしを食らった気分だ。 「そう、ってそれだけ?」 「それだけよ」  恐る恐る問いかけた言葉に、なにを聞いているのと言わんばかりの顔して母は目を瞬かせ、肩をすくめた。この母の落ち着きようは一体なんなのだろう。僕はわけもわからぬまま母の顔を見つめてしまった。

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