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第571話 決別 23-4
でも知られているとわかっていても、賛同しているかどうかまではわからなかったはずだ。お互い知らないふりをしながらやり取りを繰り返して、お互いの気持ちを探り合っていた。そして藤堂は僕の知らぬ場所で、僕のことを真剣に想っているのだと母に伝え続けてくれた。
きっと母のことも傷つけたりしないように気遣ってくれていたのだろう。そうでなければ、想いの大きさを知って辛くなったりしない。相手が優しければ優しいほどに、自分のしていることの後ろめたさが自分を辛くさせるのだ。
「さっちゃん、お母さんは言ったわよね? さっちゃんが選んだ人ならなにも言わないって」
「……あ」
母がここに来た翌日の朝だ。確かに母は僕にそう言った。僕が誰と付き合っているのか、その時もうすでにわかっていたのにだ。
「二人の気持ちが知りたくて試すようなこと言っちゃったけど。お母さんは反対しない。お母さんは二人の味方になってあげる。でも世の中そんなに甘くないから、それだけは忘れないでね」
「ごめん、ううん……ありがとう」
自然と涙が溢れた。こんなにも強く、自分が母に愛されているんだと感じたのは初めてだった。そしてそれに気づかせてくれた藤堂の存在は大きくて尊い。家族の愛情は当たり前にそこにあり過ぎて、いつの間にか忘れがちになってしまうのだ。
誰かが自分を愛してくれる、思いやってくれる。その想いを改めて感じると、僕がどれだけ幸せな人間なのか、それに気づかされる。そして知った母の愛情は深く、そしてひどく優しかった。
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