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第573話 決別 24-2
藤堂はこうしてなに気ない声で言葉を紡いでいるのに、耳元で微かに感じる心臓の音はいつもより少し早くて。いつも見せる仮面の下で、どれ程の緊張をしているんだろうかと心配になってしまう。
「そうね、まだいまは受け入れることだけで精一杯かもしれないわ。でもおばさんね、優哉くんにならさっちゃんを任せてもいいって思えるの。それに優哉くんはただの子供なんかじゃないわ。確かに歳はそうね、世間一般的にはそうかもしれないけど。あなたの強さはちっぽけなものなんかじゃない。でもね、頑張り過ぎないで、おばさんには強がらなくていいのよ。お願いだからあなたらしくいてね」
僕がいつも藤堂に伝えたいと思っている言葉を母は代弁してくれる。そして藤堂がすっと息を飲むのを感じた。少しでもいまの僕たちの気持ちが届いたならば、これ以上に嬉しいことはない。
藤堂にはもっと人に愛されるということを知って欲しい。いつだって藤堂の周りには自分を必要として労わってくれる相手がいるんだということを、これからたくさん知って欲しい。
藤堂が内側に抱えている弱さを見抜いてくれた母は、さすがに僕の自慢の母だと思う。どんな時でも強くて、厳しさもあるが、人を愛することを知っている人だ。
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げた藤堂が愛おしくて、腕を伸ばして思いきり頭を撫でてやった。髪がくしゃくしゃになるまで撫で回して、そうしたら自然とお互い笑いが込み上がってきた。やっといま心から安心ができた気がする。
「さて、せっかく優哉くんもいるし、一緒にご飯食べて帰るでしょ?」
「あ、時間平気か?」
「はい、大丈夫です」
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