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第574話 決別 24-3
「よし、じゃあ、はりきっちゃう!」
意気揚々と立ち上がった母は、腕まくりをしてキッチンへと向かった。満面の笑みを浮かべた母の顔はすっきりとしたものだったが、僕の顔はと言うとひどいものだ。ティッシュの箱を掴んで数枚抜くと、思いきりよく鼻をかんだ。その様子に藤堂は肩を震わせて笑っていた。
久しぶりにこんなに泣いた気がする。でも涙と一緒にもやもやとしていたものが流れていった。泣くという行為は心の浄化効果があると言うけれど、それは本当かもしれない。
「あ、鼻水はつけてないけど、だいぶ濡らしたかも」
またティッシュを数枚抜いて、藤堂の肩口をトントンと叩く。ほんの少しシャツが涙で濡れてしまった。しかし藤堂はそんな僕を見て優しく頭を撫でてくれる。
「このくらい大丈夫ですよ」
「んー、悪い」
「それよりも目が真っ赤ですよ」
目尻と頬に残る涙を指先で拭われて、くすぐったさに肩をすくめたら、優しく微笑まれた。そして小さな声で――可愛い、と小さく呟き、藤堂はさらに笑みを深くする。ふい打ちで呟かれたその言葉に、僕は馬鹿みたいに顔を赤くした。そして思わず藤堂の肩を何度も両拳で叩いてしまう。けれどそんな自分の姿を客観視したら、さらに恥ずかしくなってきた。
顔を赤くしながら、相手の肩を叩くと言うには優し過ぎる力で触れる自分。どんなバカップルだ。そう思ったら急に力が抜けて、藤堂の肩に手を置くと思いきりうな垂れてしまった。
「母さん、なにか手伝う」
恥ずかしさから逃れたくてキッチンへ顔を向けたら、こちらを見ていた母に肩をすくめて笑われた。
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