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第575話 決別 24-4

「さっちゃんは全然役に立たないから、優哉くんを頂戴」 「それなんかやだ」  あげたり貸したりという響きはなんとなく嫌で、ムッと不満げに口を引き結んだら、至極楽しげに笑い返されてしまった。その笑いの意味がわからず首を傾げたら、黙ってイチャイチャしていなさいと言われて、火がついたみたいに顔が熱くなる。  思えばキッチンはオープンなわけだから、先ほどまでのやり取りはばっちりと見られていたというわけだ。ますます恥ずかしさが増して、クッションを頭に被ってソファにうずくまる。  けれどそのクッションの上から何度も優しくなだめすかされた。その手の主をちらりと覗き見れば、にこりと綺麗な笑みを浮かべられてまた頬が熱くなる。恥ずかしさとその笑みに見とれて、もうどうしようもない気分になってきた。 「佐樹さん、ちゃんとわかってもらえてよかったですね」 「……うん」  知られたことの発端や駅での鉢合わせなど、色々と偶発的なことばかりではあったが、少なからず理解を示してもらえたのは本当に嬉しいと思う。家族にこうして知っていて、認めていてくれる人がいるのは心強い。  それが母ならばなおさらだ。でも、だからといって誰もがみんな理解を示してくれるわけではない。たまたま僕たちは周りに恵まれているだけで、普通ならこんなことはあまりありえないだろうと思う。  もしかしたらいいことばかりではないかもしれないけれど、それでも藤堂と一緒に歩いていくと決めたから、いまに後悔などない。僕の心は迷わずに新たな一歩を踏み出した。 [決別/end]

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