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第576話 夏日 1-1

 夏の陽射しが降り注ぐ七月。学校はまもなく夏休みに入る。長い休みを前に、生徒たちの気持ちが浮ついているのが見て取れるほどだ。  かくいう僕も夏休みを待ち焦がれている一人なのだが、残念ながら教師の夏休みは生徒とは違いそんなに長くはない。それでも今年の夏は楽しみがあるので、それを想像するだけで自然と笑みが浮かんでくる。 「西岡先生、最近ご機嫌ですね」 「え?」  急に背後から声をかけられた僕は、自分が鼻歌を歌っていたことに気がついた。慌てて背後を振り返ると、白衣を着た間宮が椅子に腰かけこちらを見ている。眼鏡を指で押し上げる彼は不思議そうな顔をしていた。 「結構長く見ていますけど、そんな西岡先生は初めて見ました」  間宮の黒目がちな瞳が、僕を意外そうに見つめ瞬きを繰り返す。そして小さく首を傾げると、癖のないこげ茶色の髪がさらりと揺れた。 「別にいいだろ」  にやけた顔を引き締めるように口を結ぶと、間宮は楽しげに声を上げて笑った。 「悪いわけではないですけど」 「だったら笑うな」 「はは、すみません」  のんきそうな表情を浮かべる間宮は、先月の終わりやっと学校に復帰したばかり。全治三週間が二ヶ月も経って帰ってくるあたり間宮らしいというか、いまやみんなの笑いのネタだ。リハビリ中にまた階段から落ちて同じ足を痛めたなんて、そんな真似をするのはコイツくらいだ。しかし松葉杖が取れたいまでもほんの少し足を引きずる仕草をするから、心配と言えば心配だ。 「それにしてもお前はほんと暇人だな」 「そんなこと言わないでくださいよ、寂しいじゃないですか」  もはやこれは癖なのだろうか。間宮は毎日のように僕の小さな城である教科準備室に入り浸り、茶を啜っている。

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