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第577話 夏日 1-2
ここへ来て間宮がなにをしているかというと、特別これといったこともなく。学校や日常での出来事を僕に語っているだけ。しかも話すことは至って普通なことで、愚痴とか悪口とかそんなものはほとんどない。おかげで気分を害することはまずないが、そんなに普段から話し相手がいないのかと疑問に思ってしまうほど、彼はここにいる。
しかしいまこのことで少々問題が起きた。いや、問題というには大げさかもしれない。けれど困っているのは確かだ。間宮のことは別に嫌いじゃないから、鬱陶しがることもなく色んなことを受け入れていたのだが、それが原因でいま複雑な状況になっていた。ふいに痛んだ頭を押さえてため息を吐き出したのと同時か、教科準備室の戸をノックする音が室内に響いた。
「……どうぞ」
その音に気がつき返事をすれば、ゆっくりと戸が引かれる。
「失礼します……って、間宮先生また、いるんですね」
現れた人物に僕の心臓が少し早く動き出した。
「あ、藤堂くんも毎日ご苦労様だね」
戸口に立っている藤堂の顔が、間宮の姿を認めると思いきり不機嫌に歪んだ。しかしそんな若干黒いオーラをまとう藤堂などお構いなしに、間宮は平和そうな顔をして笑った。この空気の読めなさ感は、僕よりも上を行くと思う。自分もかなり鈍いことを自覚しているけれど、間宮のスルー加減は半端ではない。向けられる悪意を、悪意として感じていないのではないかとそう感じてしまうほどだ。
そんな性格だから憎めなくて、邪険に扱う気も起きないのだが。しかしこの状況はあまり喜ばしくない。そう頭を悩ませる問題とは藤堂と間宮だ。
「藤堂、中に、入れば?」
むすっとした表情の藤堂に苦笑いを浮かべれば、じとりとこちらを睨まれた。そしてふっと息を吐いたかと思えば、藤堂は早足にこちらに近づくと、紙袋を僕の机に置いてさっさと踵を返そうとした。
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