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第579話 夏日 2-1

 というのも二人で旅行に行ってから藤堂の態度が前よりはっきりして、喜怒哀楽がわかりやすくなった。時々甘えたりもしてくれて、それはものすごく嬉しいのだけれど、その分だけこうしてブラックな部分もはっきりしてきた。 「……もう、いいです。先生に怒っても仕方ないですし、先生に怒ってるつもりもないですし」 「もういいってなんだ?」  明らかに不機嫌なのがわかるいつもより低めの声は、かなり素っ気ない物言いをする。そんな声にこちらはつい顔色を窺うような眼差しになってしまうが、それでも僕はじっと藤堂の目を見つめ返した。 「あの人に遠慮しても仕方ないのは、ここ最近のやりとりでわかりました。だからもういいです。謝らないでください」 「でもまだ怒ってるだろ」 「それは、察してください。俺、そんなに出来た人間じゃないんで、すぐに気持ち切り替えられるほど器用じゃないです。だからもう謝らないでください」 「う、うん」  ため息交じりに髪をかきあげ、それをくしゃりと乱して頭を抱えた藤堂は、気持ちの整理でもするかのように目を閉じた。  ここが渡り廊下でもなく学校でもなかったら、いますぐにでも抱きしめてやれるのに、もどかしい気持ちが心の中に生まれる。 「とりあえず、遠慮なくいままで通りに顔出しますので」 「ああ、でも」  毎日弁当を持ってくる藤堂は間宮にどう映るだろう。しかしすでに藤堂が来るのが当たり前であるかのように、間宮は挨拶をしている。もはや心配するだけ無駄かもしれない。けれど変に勘ぐられてしまうのは嫌だなと思った。 「いいんです。あの人の場合は変に隠したり、嘘ついたりしても無駄な気がします。意外とよく人を見てるタイプですよ。それに隠そうとするほうが詮索されやすくなりますから」 「そういうもんか?」  藤堂が言うほど間宮が敏感そうとか聡そうなどというところは、一度も感じたことがないけれど、藤堂の目に映る間宮は僕とは違うのだろうか。

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