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第580話 夏日 2-2

 首を捻る僕に藤堂はふっと口元を緩めて優しく笑みを浮かべた。 「先生がなにも感じないのは、裏表がなくてまっすぐだからです」 「あいつも、裏表とかそういうのなさそうだけどな」 「あんまり油断しないでくださいね」 「そこまで警戒しなくても」 「先生の周りは危険が多いですから」  にこりと至極綺麗な微笑みを浮かべた藤堂の言葉から「絶対に信用ならない」という含みがはっきりと伝わってしまって、返す言葉が見つからなかった。けれど引きつった笑いを浮かべた僕の頭を、藤堂は優しく撫でる。 「こら、藤堂」 「大丈夫です、誰もいません」  慌てて頭に乗せられた手を引き下ろすと、気分を害する様子もなく藤堂はふっと目を細めてゆるりとした笑みを浮かべた。含みがあるようなこういう笑い方をする時は、大概僕の反応を楽しんでいる時だ。でも眉をひそめて見上げたら、今度は子供らしく無邪気に笑われてしまった。その笑顔に僕は見事に撃沈する。  じわじわと熱くなる顔を隠すように俯き、僕は両手で顔を覆った。僕がギャップに弱いのを知っていて、わざとやっているんじゃないかと思うようなタイミングだ。 「じゃあ、先生。今日のところは戻ります」  嫌な含み笑いだ。やはり僕の反応を楽しんでいる。  けれど嫌いになるどころか、そんな藤堂が可愛くて愛おしくなる僕は、かなり重症だ。 「わかったよ、もう行っていい」 「じゃあ、また」  できる限り声を平坦にして素っ気なく言ったのに、藤堂は至極機嫌のよさげな顔で去っていった。その背中を見送る僕の心の隅に残った敗北感は、一体なんだろう。

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