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第581話 夏日 2-3
――してやられた、という感じだろうか。でもまあ、藤堂の機嫌が直ったならいいかと思ってしまう僕は、完全に負けだろう。大体どうしようもないくらい藤堂の笑顔に弱いんだから、仕方がない。
「あれ、藤堂くん帰っちゃったんですか」
準備室に戻るとパンをくわえた間宮が振り返った。そしてそれをじっと見つめる僕に首を傾げながら、間宮はもぐもぐとパンを咀嚼して珈琲でそれを飲み下す。
「……お前がいるから悪い」
「はは、ひどいです」
思わず口をついて出た僕の本音に、間宮は一瞬だけ目を丸くしたがすぐにへらりと笑った。
「それにしても藤堂くんと西岡先生が仲がよかったというのは意外です」
「別にいいだろ、たまたま気が合ったんだよ」
「ふぅん、まあ、そんなこともありますよね」
「そうそう」
小さく首を傾げながら、またパンを頬張る間宮に投げやりに答えを返して、僕は藤堂が置いていった紙袋から弁当を取り出した。
「藤堂くんのお弁当はいつもながら綺麗ですよね」
「覗くな、やらないぞ」
背後に気配を感じて振り返ると、後ろから間宮が弁当を覗いていた。でも間宮が感心するのも納得で、藤堂の弁当はいつも色味も鮮やかで、おかずも栄養が偏らないように配慮されている。今日の惣菜は僕の一番好きな和食だ。
「かなり愛を感じますね」
「……っ、変なこと言うな」
「そうですかね?」
ぽつりと呟いた間宮の言葉に、口に入れたご飯粒が飛び出しそうになった。
正直、この間宮が鈍いんだか聡いんだかよくわからなくなってきた。本気で首を傾げている様子を見ると、もう気づかれているんじゃないかとヒヤヒヤもする。
「西岡先生は生徒から愛されてますよ」
「あ、そう」
でもこうしてなんだか大きく違うところに飛躍もしていく。とりあえず間宮に振り回されないように気をつけようとしみじみ思ってしまった。
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