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第582話 夏日 3-1
いつだって彼の隣に立つのは自分なのだと主張したくなる。でもそれはまだ叶わないのだということも充分に理解している。だから二つの感情のあいだに挟まれて、時折身動きできなくなる。そして困ったように笑う彼の顔を見るたび、己の小ささを実感するのだ。
自分が傍にいなかった彼の時間の中には、自分の知らないことがたくさんある。そんな空白はどんなに埋めようとしても埋まらない。知ることはできない。けれど心を焦がすような焦燥感はいつまでも胸の中でくすぶり続ける。確かに二人の手は強く繋がれているということはわかっているのに、どうしていつまでもこの不安は尽きないのだろう。
「優哉っ」
突然響いた名前を呼ぶ声と、なにかを叩きつけたかのような大きな音。その声と音に肩が無意識に跳ね上がった。物思いにふけっていた思考が現実に戻ると、視界には窓の向こうで青空の中に流れている雲が映っていた。頬杖を付いていた腕をおろし視線を動かせば、目の前には心配そうにこちらを見つめる弥彦がいた。そしてさらに顔を動かせば、机に両手を付いたあずみが俺を見下ろしていた。
「なんでお前がいるんだ」
席が自分の前である弥彦がいるのは自然と理解できた。しかしあずみはクラスが違う。不思議に思い首を傾げると、弥彦は苦笑いを浮かべ、あずみは呆れたように肩をすくめた。
「もう帰りのホームルーム終わったよ」
「え?」
弥彦の言葉に目を瞬かせ教室を見回せば、室内は人がまばらで、皆帰り支度をしていた。
「ねぇ、そんなことより今日はバイト休みでしょう? 私に付き合いなさい」
「は? なんで」
「どうせマミちゃんがうろうろしてて、先生のとこ行けないんでしょ」
不遜な態度で言い放つあずみに眉をひそめれば、身を屈め耳元で囁かれる。
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