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第583話 夏日 3-2
その言葉に不愉快さを隠さず睨むが、まったく意に介さずあずみは口元に手を当てて笑った。
「駅前に新しくできたケーキが美味しいって評判のカフェに行きたいの」
「冗談じゃない、友達と行けばいいだろ」
満面の笑みを浮かべるあずみに素っ気なく返すと、急にムッと顔をしかめてこちらに恨めしげな視線を向けてくる。途端に不機嫌になったその様子に驚き弥彦を見れば、眉尻を下げて困ったように笑っていた。
「仲のいい友達が二人とも用事があるんだって」
小さな声で俺にそう言って弥彦はちらりとあずみに視線を向ける。そこには頬を膨らませてふて腐れている顔があった。
「さては二人とも男ができてお前とは遊んでる暇なくなったんだろ」
「うるさーいっ、今日は絶対に両手に花で行くんだからっ」
顔を真っ赤にしながら眉間にしわを寄せたあずみは、俺と弥彦の腕を掴むと有無を言わせない調子で強く引っ張る。冗談で言ったつもりだったがどうやら図星だったようだ。
「わかったから引っ張るな。ったく、お前は俺や弥彦とばかりつるんでるから男ができないんだろ」
「はーやーくーっ」
俺の言葉は聞きたくないのか、遮るようにあずみは大きな声を出し、机をバンバンと叩いた。
「ショートケーキにチーズケーキにガトーショコラにシフォンケーキに」
「一体いくつ食べる気だよ」
「三人いるから最低三個は食べられるもんね」
教室での宣言通りに、校舎を出るとあずみは俺と弥彦の腕に自分の腕を絡ませ、両手に花とやらを満喫しているようだった。真ん中で機嫌よさそうに笑うあずみを俺と弥彦は苦笑いで見下ろしていた。
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