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第585話 夏日 3-4

 そんな俺の視線を訝しく思ったのか、目の前のその男は首を傾げサングラスを外すと、こちらをじっと見つめ返してきた。そして数秒、緑色の瞳が驚きに見開かれた。 「びっくりしたぁ。一瞬わからなかったよ」  俺の心の内など気にも留めないような笑みを浮かべ、その男――月島渉は俺に向かって手を挙げひらひらと振って見せた。 「ふぅん、なるほど。こうして制服着てると確かに高校生だね」  立ち止まっていた俺たちに近づくと、月島は顔を上から下へと動かし俺の姿を物珍しげに見た。そしてその不躾な視線に俺が顔をしかめると、小さく笑って目を細める。 「なんであんたがこんなところにいるんだ」  校庭ですれ違ったことを考えれば、学校に用があってきたことは想像できる。しかし一体なんの用があってきたのか――まさか彼に会いに? 「ふふ、気になる?」  俺の顔を下から覗き込み、からかうような視線を向けるその仕草に、胃の辺りがカッと熱くなった。苛立ちが心の中で膨れ上がる。しかしいまにも掴みかかりそうな雰囲気を感じ取ったのか、あずみが俺の腕をぎゅっと強く握った。 「そんなに怖い顔しないでよ。俺はねぇ、佐樹ちゃんのお願いで部活の手伝いするために来たんだよ」 「部活?」  肩をすくめて笑う月島の顔を俺は訝しげに見つめた。けれど大人しく隣で黙っていたあずみが小さな声を上げた。その声を俺は不思議に思いあずみの顔を見る。その表情は花が咲いたかのように明るく、目が輝いていた。 「あ、あの。もしかしてフォトグラファーの月島渉さんですか?」 「え?」  人目を憚るように小さな声で尋ねたあずみに、月島は驚いたように目を丸くした。

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