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第587話 夏日 4-2

 得意げに指を三本突き出したあずみに肩を震わせ笑う月島の姿を、俺だけが冷えた視線で見つめていた。そしてそんな俺の視線に気づいた月島がこちらを見て、ゆるりと口の端を持ち上げる。 「一人だけ寝耳に水って感じだね」 「え?」  からかいを含んだ月島の言葉に、あずみと弥彦が驚きをあらわにして俺を振り返った。 「これから三人でデート? 少し時間、あるかな?」 「……」  首を傾げてまっすぐに俺を見つめる月島の視線に、あずみと弥彦はなにかを察したように顔を見合わせる。そして四人のあいだに奇妙な沈黙が広がった。けれどその沈黙は長く続かなかった。道の先から低いエンジン音を響かせバスが近づいてくる。 「優哉?」  そっと手を握り、あずみは心配げな目で見上げてくる。けれどその視線には振り向かず、俺は握られた手を解くように黙ったまま足を踏み出した。そしてそれと同時か、バス停にバスが停車する。開いた乗降口を通り過ぎて立ち止まった自分の背中に視線を感じたが、それでも俺は振り向かなかった。 「あっちゃん、行こう」  弥彦に促されあずみはバスに乗り込んでいく。しばらくするとドアが閉まるブザーが鳴り響き、バスは横を通り過ぎていった。 「邪魔しちゃったかな?」 「……」  また歩き始めた俺の背中を追い、走り寄ってきた月島は前を向く俺の顔を覗き込む。けれど返事をしない俺に諦めたのか、口を閉ざし前を向いた。 「夏休み、一日だけ写真部の校外部活動に付き合う約束したんだよね。今日はスケジュール確認、を言い訳に佐樹ちゃんに会いに来たわけ」  しばらく沈黙のまま並び歩いていたが、まったく口を開かない俺を見かねたのか、ぽつりぽつりと月島が話し出す。

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