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第588話 夏日 4-3
ちらりとこちらへ視線を向けて俺の反応を窺っているようだが、いまの俺にはそんな視線すら受け止める余裕がなかった。
「あのさぁ、怒ってるのー? 俺に? 佐樹ちゃんに? ねぇ、そろそろ返事しなよ。なにをそんなに警戒してるわけ?」
ふいに目の前に立った月島は、呆れたようにため息を吐きながら俺にまっすぐと視線を向けてくる。けれど目の前に立ちはだかった月島に歩みを止められた俺は、その視線から目をそらした。
「警戒される意味がわかんないんだけど。俺はさぁ、きっぱりはっきり振られた身なんだよねぇ。悔しいけど勝者は君。もっとさ、どっしり構えてていいんじゃないの? それともまた俺が現れて怖いの? ねぇ、それって馬鹿馬鹿しくない?」
余裕さえ感じさせるような態度で指先を俺へと向ける月島の姿に、俺はなにも言えずに拳を握りしめた。言われた言葉は最もだ。あの人は間違いなくいまは俺のものなのだから、誰が現れようとも怯える必要などない。けれど不安は押し寄せてくる。
「佐樹ちゃんのこと、信じてないの?」
信じている。いまは俺だけだと言ってくれたその言葉も気持ちも疑いはしない。それでも――どうしても心の中にこびりついた不安が消えていかない。
「見た目は大人と変わらないけど、やっぱりまだまだ君も子供だね」
言い淀んでいる俺に肩をすくめて、月島は煙草を取り出し咥えるとそれに火を灯した。ゆっくりと吐き出された紫煙が目の前でゆらりと揺れる。その先に苦笑する歪んだ唇が見えた。
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