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第589話 夏日 4-4

「そんなに佐樹ちゃんに好意を寄せて近づく人間が怖い? でもさ、大人の世界って広いんだよ。君の知らない佐樹ちゃんはいて当たり前。いつどこで誰と会ったか、そんなことまで気にして付き合っていくの? それって重くない?」 「……そんなことは、言われなくても、わかってるっ」  突きつけられる言葉はどれも胸に深く突き刺さる。吐き出した言葉は掠れて、握りしめ過ぎた拳は震えて白くなった。  信じているのに、信じているはずなのに、心の片隅で俺は彼を信じきれていないんだろうか。いや、やはり自分に自信が持てないからかもしれない。彼を確かに繋ぎ留めるだけの強さがない自分に不安になるのだ。 「君がそんなだから、佐樹ちゃんは簡単なことさえ伝えられないでいるんだよ。腹は立つけど、俺と彼はなにもないただの付き合いが長い友人。その友人に頼まれごとをしたから聞いてあげただけ。ほかになにがあるっていうのさ」 「でも、あんたはまだ佐樹さんに未練がある」  ぽつりと呟いた俺の言葉に、まっすぐと向けられていた目が一瞬だけ揺れて伏せられた。けれど煙草を吸い、長く息が吐き出されると再び力強い瞳が俺の目を見据える。 「未練? あるに決まってるでしょ。何年一緒にいたと思ってるのさ。女ならまだ我慢ができた。けどいきなり横から現れた男に持って行かれそうになって、引き止めたくて、焦って告白するくらい好きだったよ」 「そんなに好きだったなら、なんで友達でいることを選んだんだ」 「はっ……君さ、ほんとにムカつくね。君に聞かれると余計腹が立つよ」  苛立たしげに髪をかき上げると、月島は舌打ちをして俺の制服のネクタイを鷲掴み強く引いた。

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