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第593話 夏日 5-3
「ため息ついて、あいつと喧嘩でもしてるのか?」
「耳ざといなお前は、って暑いって言ってるだろ」
ぼんやり藤堂のことを考えていたらずしりと背中が重くなった。
夏休みで節電中の校内は、廊下の窓から吹き込んでくる微かな風のみで涼しさがない。それなのに大きな図体で抱きつかれるとじんわり汗が滲んでくる。
「センセいい匂いする。シャンプーかなんか?」
「わぁっ、汗かいてんのに匂い嗅ぐな馬鹿っ」
スンと頭の上で鼻を鳴らした峰岸は、さらに抱きつく力を込めようとする。それを察した僕は慌ててその場でしゃがみ、前屈みに倒れながらもそこから逃げ出した。
「犬みたいな真似するな」
「しょうがねぇだろ、いい匂いしてんだもん」
「だもん、じゃないっ」
いまの無駄な動きでさらに汗をかいた気がする。早く涼しいところへ、職員室へ移動したい。
「喧嘩の原因って写真部に来るやつ?」
暑くて俯いた僕の前で目線を合わせるようにしゃがんだ峰岸は、こちらを見つめてにやりと笑うと首を小さく傾げた。
「なんで」
「知ってるのかって? 部活動の届け出は生徒会経由だぜ、センセ」
「あ、そうか」
うちは生徒が絡むことはほとんど生徒会が一枚噛んでくる。授業やそういったもので講師を招く場合は生徒会では関知しないが、部活動で外部講師を呼ぶ場合は顧問の先生から直接上へ行くのではなく、一旦生徒会に回されてから決定権のあるところに回されていくのだ。
「書類見たけど、あの人あれで日本人って詐欺だよな」
「……それは言うな」
「でも美人だよな」
「まあ、確かに、綺麗だと思う。でも渉さんそういうの嫌いだから、本人に会うことがあっても絶対に言うなよ」
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