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第594話 夏日 5-4

 渉さんの顔や素性はおそらく一部の人しか知らないだろう。渉さん本人と彼の契約している会社の希望で、極力写真部以外には知られないようにと言われている。元々顔出ししていない人だから余計にそこだけは念を押された。  しかしそんな渉さんがなぜ写真部に来ることになったかと聞かれれば――僕のうっかりのせいだ。片平や三島と渉さんの話をしているのを写真部の顧問である北条先生に聞かれてしまい、僕が渉さんの友人であることがバレたのだ。  渉さんの大ファンだという北条先生がそれに食いつき、無理を承知で来てもらえないかと何度も頭を下げられ、仕方がなく連絡を取ったのがきっかけだ。 「で、あの人とセンセの関係は?」 「別に、ただの友達だ」  直球で切り込んでくる峰岸にたじろぎながら答えると、ふっと目を細めて笑われた。少し見透かすような視線を向けられて、なんだかそわそわしてしまう。 「ふぅんそうか、でもただの友達ってだけであいつ怒るか?」 「そっ、それは」  ブレなく痛いところを突かれた。というか峰岸相手に誤魔化したり、口で勝ったりできそうな気がしない。頭の回転が速いから僕の思考など簡単に読み取られる。 「センセ可愛いな」  終いには頭を撫でられてしまった。遠慮のない子供扱いにため息が出る。 「あのさ俺、あの人がセンセに振られてんの見たんだよな」 「は?」  いきなり告げられた峰岸の言葉がうまく飲み込めなかった。 「え? 嘘だろっ」  しばらくしてやっと理解した僕は、予想外なその言葉に驚き過ぎて、しゃがんだ状態のまま後ろへ転がりそうになった。

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