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第598話 夏日 6-4

「なっ、余計なお世話だっ、その話はほっといてくれっ」 「はは、マジでまだなのかよ」  呆れたように峰岸に笑われ、夏の熱気と相まって顔が尋常じゃないくらいに熱い。さらに冷や汗なのかなんなのかわからない汗が吹き出して、心臓は馬鹿みたいに早くなる。 「あー、うっせ。お前だってな、もうちょっと気合入れねぇと横から俺にかっさらわれるぞ」 「峰岸ストップ、もう余計なこと言うなっ」  電話口から藤堂の声が漏れ聞こえてくる。絶対に怒ってるだろうその様子に肩を落とし、届かない携帯電話は諦めて目の前にある制服のシャツを握った。すると視線を落とした峰岸にそっと髪を梳いて撫でられた。  その感触に俯きがちだった顔を上げれば、こちらを見下ろす峰岸の視線とバッチリ合ってしまう。じっと瞳の奥を覗くような真剣なその視線は、安易にそらすことができなかった。 「隙あり」  まっすぐな視線に戸惑っている僕をよそに、目の前の口角はゆるりと持ち上がった。そして身構える間もなく峰岸は僕を抱きしめた。 「え? ちょっ、やめっ」 「センセはほんと、汗臭くないよな。いい匂い」  こめかみや首筋に顔を埋める峰岸はぎゅっとさらに強く僕を抱きしめる。しばらくじたばたと腕の中でもがいてから、やっと腕が離される。 「なにすんだ馬鹿っ」  僕を抱きしめていた腕を思いきり叩くが、峰岸には大したダメージではないようだ。それどころか怒った僕を華麗にスルーして、無邪気過ぎるほど無邪気な笑みを浮かべる 「あいつ来ると思う?」 「え?」  ふいに耳元に当てられた携帯電話の不通音を聞いて、目の前が暗くなった気がした。この男、やる悪戯の度が過ぎる。

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