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第599話 夏日 7-1
僕が油断をし過ぎているのも確かで、隙があり過ぎるのも確かだ。でもこうも容易く弄ばれると、色んな意味でへこまずにはいられなくなる。そしてそのたびになんと言って藤堂に謝ればいいのかわからなくて、どん底まで落ち込んでいく自分がいる。
あれからしばらくして藤堂から「学校へ行きます」とメールが届いた。そのメールにも驚いたが、メールから四十分後。電話に呼び出され校門前へ行くと、しゃがみ込んだ藤堂が塀にもたれていた。よほど急いできたのか、頭を下げ少しばかりぐったりとした様子だ。
陽も暮れかけて直接的な暑さは弱まったと言えど、アスファルトに蓄えられた熱はまだ汗ばむほどの熱気を持っている。夏休みのためか駅から出る学校行きのバスが少ないこの時間、区間のふた駅を歩いてきたのか走ってきたのか――この様子では後者だろうか。淡いブルーの半袖シャツが汗で濡れて、中に着ているタンクトップがほんの少し透けて見えていた。
「大丈夫か」
俯いた顔を覗き込み、汗のにじむ横顔をハンカチで拭ってやれば、藤堂はゆっくりと顔を上げた。普段はレンズ越しの視線が、今日は遮るものなく直接こちらを見る。
あまり見る機会の少ない素顔に、自然と胸の鼓動が早くなっていくのに気づくけれど、じっとこちらを見る瞳から目を離せなかった。
「藤堂?」
夕焼けに染まる景色の中では、少しうるさいくらいに蝉の声と部活動の生徒の声が響き渡っている。けれど周りの景色や音は学校での日常なのに、制服姿ではない私服の藤堂が目の前にいるせいか、頭が少し混乱する。隣に並んで同じようにその場にしゃがむと、藤堂の手がゆっくりとこちらへ向かい差し伸ばされた。
指先は髪を梳き、優しく頬を撫でる。その感触にその先は容易に想像できた。間近に迫る藤堂から離れなければと、頭の片隅で思うけれど、身体は一ミリも動かなかった。
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