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第601話 夏日 7-3
「なんか、ごめんな。こんなことで学校にまで来させて」
たまたま今日バイトが休みだったからよかったものの、これでバイトが入っていたらどうなっていたことだろう。普段はしっかりしているくせに、藤堂はとっさの出来事に対して時折周りが見えなくなることがある。今日はバイトをすっぽかしてでも来そうな勢いだったから、休みで本当によかった。
「こんなこと、じゃないですよ。俺にとっては重要なことです」
ほっと胸をなで下ろしていると、藤堂は少し不服そうに眉を寄せた。
「申し訳なく思うならどんなに仲がよくても、周りを少しは警戒するようにしてください」
「ああ、うん……気をつける」
藤堂をこんなに困らせるなら、危機管理能力というものについて改めて考えなくてはいけないなと、今更ながらに思ってしまった。けれど普通に生活をしていて同性相手に危機感はなかなか持ちにくいものだ。とりあえずは峰岸や渉さんなどわかりやすいところから気をつけようと思う。
「今日は、何時に終わります?」
「え?」
突然の問いかけに思わず首を傾げてしまった。
「せっかくここまで来たんで、家まで送ります。というより、送らせてください」
藤堂の言葉にまた気持ちが浮ついた。一緒に帰れるなんて想定外で、でもそれが嬉しくて、つい顔が緩んでにやにやとしてしまう。
「あ、えっと」
けれど僕はそんな情けない自分の顔に気づき、それを隠すように腕時計の文字盤に視線を落とした。
「佐樹さん?」
「もう、帰れる。今日は特にすることは、もうないから」
訝しむ藤堂の声に慌ただしく立ち上がり、僕は挙動不審なまま校内へ戻ろうと踵を返した。しかし歩き出そうとした僕を藤堂の手が引き止める。手首を掴まれた感触に驚いて振り返れば、藤堂は僕を見つめて苦笑すると肩をすくめた。
「そんなに慌てなくていいですよ」
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