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第603話 夏日 8-1

 繋がれた手と藤堂の顔を交互に見つめ、僕はもの言いたげに手を引っ張った。けれど揺すっても、振り回しても繋がれた手は離れていかなくて、思わずがっくりと肩を落としてしまう。  そんな僕を見つめる藤堂はやんわりと微笑みを浮かべるばかりだ。 「離れたくないって言ったでしょう」 「だ、だからってこのまま行くつもりか」  恥ずかしげもなくさらりと言い切った藤堂は、大したことではないと言わんばかりの表情で肩をすくめてみせる。 「……」  随分と前に生徒会のメンバーも帰宅をしているし、校内に残るのは部活動の生徒や先生くらいだろうと思う。しかしこのまま行って、いきなり誰かと鉢合わせするのはなんとなく気まずい。譲る気配のない藤堂をじっと見つめて訴えてみるが、効果はなかった。 「帰るのが遅くなるので行きましょう」  終いには僕の手を引いて、どんどんと藤堂は校舎に向かい足を進めていった。 「お前は妙なとこで強引で意固地だな」 「嫌ではないでしょう?」 「い、嫌ではないけど」  そんな風に聞かれては嫌だなんて言えない。実際のところ気恥ずかしいのであって、嫌なわけではない。僕の答えに頬を緩めた藤堂に小さく息をついてしまう。結局のところ僕はひどく藤堂に弱い。 「ひと気のない学校ってなんだかいつもと違う雰囲気がありますよね」 「そんなもんか?」 「俺は遅くまで居残ることないんで、特にそう思いますね」 「そうか、バイトでいつも帰るの早いしな」  夕陽に照らされたオレンジ色に染まる校舎を窓から眺め、ふと藤堂の横顔を見上げる。わくわくしているような少し子供らしい表情がそこにはあり、なんとなく嬉しくなった。 「なんですか?」 「いや、なんでもない」 「そうですか」  ほんの少し藤堂は訝しげな表情を見せたけれど、機嫌がいいのか彼はそれ以上は気にする様子もなく黙って先を歩いていく。しかし繋いだ手に力が込められ、こちらの心臓は先ほどから少し鼓動が早い。

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