611 / 1096

第611話 夏日 10-1

 口づけを交わすたびに胸に想いが降り積もる。そして好きで好きでたまらなくなって、愛おしさに飲み込まれてしまう。触れ合う熱はいくつも心に火を灯していくから、もうきっとこれ以上の想いなんて見つからないと思い知る。  ゆっくりと離れていく藤堂を視線で追いかけると、名残惜しさを感じ取ったのかもう一度唇が触れた。それが嬉しくて思わず口元が緩んでしまう。 「佐樹さんが可愛いから、とりあえず満足しました」 「なんだよ、そのとりあえずって」  ふっと目を細めて笑った藤堂の顔を見て、つられるようにこちらも笑ってしまう。心がじんわり温かくなって、くすぐったい気分になる。そんな気持ちを誤魔化すように藤堂の指先を握れば、なにも言わずにぎゅっと強く手を握り返してくれた。それが嬉しくて小さく笑ったら、やんわりと頬に口づけられる。 「ずっとこうしていられたらいいのに」  握られた手に力がこもり、指先が絡み繋ぎ合わされた手のひらからは熱が伝わった。こちらを見下ろす寂しげな瞳が揺れて、胸がきゅっと締めつけられる思いがする。 「きっとあっという間だよ」  まだまだ先だと僕も思っていた。けれど藤堂が卒業するまで、多分きっと思っているよりも時間の流れは速いだろう。最近はなに気ない時間があっという間に過ぎていく。そして時間が過ぎれば、その先はずっと一緒にいられる。繋いだ手を握り返して笑みを浮かべれば、少しほっとしたような顔で藤堂もまた笑みを浮かべた。 「そうですよね」 「うん」 「ずっとモヤモヤしてたんですけど、直接聞けてよかった」

ともだちにシェアしよう!