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第611話 夏日 10-1
口づけを交わすたびに胸に想いが降り積もる。そして好きで好きでたまらなくなって、愛おしさに飲み込まれてしまう。触れ合う熱はいくつも心に火を灯していくから、もうきっとこれ以上の想いなんて見つからないと思い知る。
ゆっくりと離れていく藤堂を視線で追いかけると、名残惜しさを感じ取ったのかもう一度唇が触れた。それが嬉しくて思わず口元が緩んでしまう。
「佐樹さんが可愛いから、とりあえず満足しました」
「なんだよ、そのとりあえずって」
ふっと目を細めて笑った藤堂の顔を見て、つられるようにこちらも笑ってしまう。心がじんわり温かくなって、くすぐったい気分になる。そんな気持ちを誤魔化すように藤堂の指先を握れば、なにも言わずにぎゅっと強く手を握り返してくれた。それが嬉しくて小さく笑ったら、やんわりと頬に口づけられる。
「ずっとこうしていられたらいいのに」
握られた手に力がこもり、指先が絡み繋ぎ合わされた手のひらからは熱が伝わった。こちらを見下ろす寂しげな瞳が揺れて、胸がきゅっと締めつけられる思いがする。
「きっとあっという間だよ」
まだまだ先だと僕も思っていた。けれど藤堂が卒業するまで、多分きっと思っているよりも時間の流れは速いだろう。最近はなに気ない時間があっという間に過ぎていく。そして時間が過ぎれば、その先はずっと一緒にいられる。繋いだ手を握り返して笑みを浮かべれば、少しほっとしたような顔で藤堂もまた笑みを浮かべた。
「そうですよね」
「うん」
「ずっとモヤモヤしてたんですけど、直接聞けてよかった」
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