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第613話 夏日 10-3

 藤堂の声音から感じたそれは、夏は暑いから嫌いだとかそんな簡単な理由ではない気がして、また「そうか」と呟いて僕は藤堂の手を握り返した。 「佐樹さん、楽しみにしてます。佐樹さんの家に行くのも、写真部について行くのも」 「写真部のも?」 「えぇ、佐樹さんと会える数少ない日ですから」  思えば夏休み中はなにかとお互い忙しいから会う機会が少ない。渉さんがいるから嫌がると思っていたけれど、そんな風に考えてくれていたなんて、嬉しい誤算だ。 「そっか、そうだな」  僕も楽しみにしていると、そう思いながらまっすぐ前を向く藤堂の横顔を見つめた。もしかしたらいままで、あまり夏にいい思い出がなかったのかもしれない。もしそうだとしたらそんな寂しい思い出は塗り替えて、少しでも藤堂が笑っていられる時間を増やしてあげたい。 「地元でさ、お祭りがあるんだ。花火もやるし、実家に行ったら夏らしい夏を体験させてやるよ」  田舎の祭りだから大層なものではないが、それでも季節を感じるには充分過ぎるものだと思う。ゆっくりと休みを満喫して、ほんのちょっとでもいいから藤堂の心が穏やかになればいい。  僕が藤堂にしてあげられることなんてこれくらいしかないけれど、それでも藤堂のためならなんだってしてあげたい。 「楽しみです」 「うん」  二人でたくさん色んなことをしたい。いっぱい笑って嫌なことは全部忘れて、いい夏だったなって言えたら最高だろう。

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