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第614話 夏日 10-4

「向こうはこっちよりずっと涼しいから過ごしやすいぞ」 「それはいいですね」  昼間のうだるような暑さを孕んだアスファルトが続く道で、汗を滲ませながら僕らは顔を見合わせて笑った。そして時折吹く風に目を細めて、夏の暑さを実感する。  二人の夏休みまであと少しだ。そう思ったらこの暑さもちょっとぐらいなら我慢できそうな気になった。 「佐樹さんといると幸せです」 「なんだよ急に」  突然の言葉に驚きと戸惑いで声が少し上擦った。改まってそんなことを言われるとなんだかむず痒い。けれど藤堂の声には色んな思いが詰まっていそうだ。 「すみません。なんだかふとそう思って、言葉にしたくなったんです」 「……それだけならいいけど。思い悩むくらいなら、ちゃんと僕に吐き出せよ」  心の内に色々と溜め込む癖があるので少し心配になる。夏が嫌いだなんてそんな弱音を吐くほどだから、もしかしたらちょっと弱っているのかもしれない。そういえば今日はやたらと僕に触れたがる。でも釘を刺すように言ったら、振り返った藤堂がふっと頬を緩め嬉しそうに笑う。 「佐樹さんといると心強いですね」 「いつもお前に助けてもらうばかりだからな。たまには頼っていいぞ」  本当はたまにじゃなくてもっと頼って欲しいと思っている。いつだって藤堂が抱えているものを半分でもいいから背負ってやりたいと思う。そんな気持ちを伝えたくて、ほんのわずかの距離を埋めて僕は藤堂の隣に立った。  隣で見上げる僕に少し驚いたような表情を浮かべたけれど、藤堂は僕の心の内を察してくれたのか、寄り添うように肩を並べてくれた。

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