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第615話 夏日 11-1
すっかり日の暮れた景色が窓の向こうを流れていく。そんな様子をなに気なく眺めながら、ほんの少し混雑した電車の中で、僕と藤堂は周りに気づかれないようこっそりと小指を絡ませていた。
密やかなその行為は胸を熱くする。電車の扉に身体を預けて、遠くを見ていた視線をふと窓に映る藤堂へ向ければ、ぶれることなくその視線は藤堂のものと重なる。ずっと僕を見ていたことに気づき、さらに胸はざわめいた。気恥ずかしくて顔を俯けたら、絡んだ指先に力が込められる。
その指先から感じる体温と自分を見つめる視線に、心臓はトクトクと音を早めていく。もう何度も手を繋ぎ合わせ、その目を見つめてきたのに、それでも何度も何度でも僕の胸は高鳴ってしまう。
「もう、帰る?」
たった一駅分しかない距離はあっという間で、絡んだ指は自然と解けた。そして二人で電車を降りて改札の前で立ち止まる。俯いた顔を持ち上げて、向かい合わせに立っている藤堂を見つめたら、小さく首を傾げられた。
「その、まだ時間があったら、うちに寄っていかないか。あ、母さんはまだいるんだけど、もしよかったら夕飯でも」
まっすぐと僕を見つめる藤堂の視線が恥ずかしくて、僕はまた俯いてしまう。ぎゅっと拳を握り、緊張しながら身を固くしていると、頭上から小さな笑い声が聞こえた。
「お邪魔でなければ」
至極優しい声音に顔を持ち上げれば、藤堂の視線は先ほどと変わらずまっすぐ僕を見つめ、柔らかな笑みを浮かべている。そしてその表情を見た途端、僕はほっと息を吐いた。
「しばらく会えていなかったから、俺もまだ佐樹さんの傍にいたいです」
「あ、うん」
まったく同じことを思っていてくれたことが嬉しくて、次第に頬が緩み熱くなっていく。
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