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第619話 夏日 12-1

 のんびりとした食事を終え、二人でキッチンに立ち食器を片付けていると、ふいに藤堂の手が僕の手首を掴んだ。その感触に驚いて振り返れば、藤堂の視線がじっと僕の目を見つめる。その視線に戸惑いながら僕は小さく首を傾げた。 「明日、朝早くに帰らなくちゃいけないんですけど。傍にいてもいいですか?」 「……え?」  ゆっくりと僕の手を持ち上げ指先に口づける藤堂の視線は、それることなく僕をまっすぐと見つめている。その眼差しに鼓動は急激に早まった。また僕の心はあっさりと見透かされてしまったようだ。まだ傍にいたいという我がままな想い。それをいとも容易く見破って、藤堂は僕の心を抱きしめてくれる。  気恥ずかしくて俯きながら小さく頷いたら、額にやんわりと口づけされた。 「二人で一緒に寝るの久しぶりですね」 「うん、そうだな」  思いがけず叶った願いにどうしても心は浮き立ってしまう。最後に藤堂が来てくれたのは五月の半ば頃だから三ヶ月ぶりくらいだろうか。姉の佳奈は店をやっていて、商品の仕入れで海外をあちこち回るので、一度飛び出すとなかなか帰らない。今回も思った以上に長かったな。 「あ、お風呂沸いてると思うから、先に入って来い」 「わかりました」  食事の片付けが終わると藤堂を風呂へと送り出した。そのあいだにベッドのシーツを取り替えて、洗濯機に放り込む。寝室は母が時折掃除してくれていたので、散らかってはいないので大丈夫だろう。クローゼットにしまっていた枕を圧縮袋から取り出して、形を整えるとベッドにある枕と並べた。  一緒に眠ったことは数えるほどしかないけれど、ドキドキもするしそれと共に安心もする。朝まで一緒にいられる、そう思ったら顔が緩んでにやにやとした笑みが止まらなくなってきた。手にしたものをぎゅっと抱きしめ、思わずそれに顔を埋めてしまう。

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