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第621話 夏日 12-3
そんな表情が可愛くて僕は思わず笑ってしまう。そして急いで洗面所にあるドライヤーを取りに行くと、ソファに座り直し僕は足元を指差した。
「ここ座って」
浮かれた僕の視線に少し戸惑った様子を見せながらも、藤堂は指差した僕の足元に胡座をかいて座った。
「熱かったら言えよ」
ドライヤーの風を当てながら髪を指で梳き乾かしていく。指通りのいい藤堂の髪は、水気がなくなってくるとさらさらとして触り心地がよかった。無防備な背中を見つめながら、僕は胸に広がる幸せを噛みしめる。
「あ、藤堂。携帯」
一瞬ドライヤーの音で気づくのが遅れたが、ソファの上で震え鈍い音を響かせる携帯電話に気がついた。しかし藤堂は腕を伸ばして携帯電話を掴んだが、それをしばらく見つめたまま一向に出ようとはしなかった。それを不思議に思い髪を乾かす手を止めると、藤堂は携帯電話を開き終話ボタンを押して着信を断ち切ってしまった。
「出なくてよかったのか?」
「……えぇ、いいんです」
僕の問いかけにぽつりと呟かれた、どこか影を落としたような声に胸がざわりとした。手にしたドライヤーの電源を切ると、それをソファに放り、僕は藤堂の横に座る。そして俯いた藤堂の顔を覗き見て、ぎゅっと胸が鷲掴まれたみたいに痛んだ。
ぼんやり携帯電話を見つめ、ため息を吐き出した藤堂の表情には、疲れのようなものが滲んで見える。なにがあったのか、それを知りたい気持ちは強かったけれど、それ以上にいまの藤堂を見ているのが辛かった。またきっとなにかを心の中に詰め込んでしまっているに違いない。
「藤堂、こっち見て」
しかしそっと腕を掴むけれど藤堂は振り向いてはくれない。
「藤堂」
もう一度だけ手を握り名前を呼ぶと、ようやく我に返ったように顔を上げて藤堂は振り向いた。
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