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第627話 夏日 14-1
身支度を調えてから藤堂が立つキッチンの前で椅子を引くと、ふいに顔を上げた藤堂が心配そうにこちらを見つめた。急にそれることなく視線が重なり、カウンターに置かれていた新聞を取ろうとした手元が狂う。
「佐樹さん身体、辛くない?」
「だ、大丈夫だ」
「そうですか、それならよかった。少し無理させたんじゃないかって、心配だったんです」
「平気だ。どこも痛いところはない」
自分でもわかるほどに頬を紅潮させながらもごもごと返事をすれば、藤堂が小さく笑った気配を感じた。そんな笑みに動揺しながら落としてしまった新聞を拾い上げると、こちらへ近づいてくる藤堂のつま先が視界に入る。
「朝はパンでよかったですよね?」
「ん、ありがとう」
サンドイッチを載せた皿とサラダと珈琲をカウンターに並べ、藤堂は僕の隣の椅子を引いて座る。しかし目の前には一人分の朝食しかなく、藤堂は珈琲だけを手にしていた。
「藤堂は?」
「あ、俺は先に軽く済ませました」
「そうか」
微笑んだ藤堂に頬を熱くしながら、僕はいつものように新聞を片手に持つと、藤堂の作ってくれたサンドイッチを頬張る。そんな僕を藤堂は優しく目を細め、至極嬉しそうに微笑みながら見つめていた。
リビングの窓から射し込む光と緩やかで穏やかな時間。何度過ごしてもそれはたまらなく幸せで暖かかった。
「藤堂」
「なんですか?」
読み終わった新聞をカウンターに戻す頃には、藤堂は食べ終わった食器をキッチンで片付けていた。そしてそんな俯く藤堂に僕は声をかける。
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