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第632話 夏日 15-2

「会いたかったよ」 「えっ、あ……び、びっくりした」 「ふふ、佐樹ちゃんが隙だらけだからだよ」  抱きしめられて我に返った僕の顔を、至極楽しげな表情を浮かべて渉さんは覗き込む。綺麗な緑色の瞳がまっすぐと僕の目を覗き込み、少しドキリとした。 「そういえば今日は彼氏くん一緒じゃないの?」  ふと僕の後ろに視線を向けて渉さんは首を傾げる。 「あ、ああ。色々と準備あるみたいで、片平と三島と行くって」  事前に藤堂には渉さんが車で迎えに来ることは伝えたけれど、一緒に行けなくてすみませんと謝られてしまった。でも嫌な顔はしていなかったから、信用してもらえてるのかなと安心もした。 「ふぅん、そーなんだ。あの天パで背のおっきい子と黒髪のお人形さんみたいに可愛い子だよね?」 「そう」 「仲がいいんだね」 「幼馴染みなんだあの三人」 「なるほど」  不思議そうな顔をしていた渉さんは、僕の言葉になにか納得したように一人頷いていた。 「よーし、じゃあ出発しようか。どうぞ」  そう言って渉さんは後部座席のドアを開けて僕を促す。それに勧められるまま車に乗り込むと、なぜか渉さんも僕と同じ後部座席に乗り込んできた。なにかおかしいと思考を巡らせて、はっと僕は運転席を見る。そこには見慣れない後ろ姿があった。 「渉さん、彼は?」 「あ、あー、こないだ言ったでしょ。一人ついてくるのがいるって、その荷物持ちくん」  夏休み前に来た時にもう一人来るとそういえば言っていた。それを思い出した僕は、そっと運転席に顔を向けて黙って前を向く彼を覗き見る。

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