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第639話 夏日 17-1
予想外のメンバーも増えたが、なんとか全員揃い園内に入ることになった。この自然森林公園はかなり広く、アスレチックジムやバーベキュー施設があったり、レンタルサイクルでも回れたりするほどだ。敷地内は木々が多く生えているが大きな湖や、景観を生かした建物などもある。和風建築の建物や洋館などの建物、庭園などもあって写真を撮るにはもってこいなロケーションだ。
園内で一番広い広場の一角。大きな木製のテーブルとベンチがある場所にまずは一同は集合した。
「はーい、ではまず注意事項など言うので頭に叩き込んでください」
部員たちの前に立ち、片平が資料片手に説明をはじめた。それを部員たちは真剣な顔をして聞いている。
「で、今回はこちらの公園に部活動として園内を撮影する許可を頂いていますが、写真部の部員はさっき渡した腕章を必ず身につけていてください。ほかのお客さんもたくさんいるので絶対に迷惑かけないように。そして今日は西岡先生のお力添えで、ものすごーく、とてつもなくものすごく特別に講師として来ていただいた方がいます」
後ろに立っている僕ら教師陣をちらりと振り返り、片平はその傍にいた渉さんに視線を移して頭を下げる。その視線を受けて渉さんは笑みを浮かべると、足を踏み出し片平の隣に立った。
園内に入る前から渉さんの存在はかなり目立っていて、部員たちもずっとそわそわしていた。いよいよその正体がわかるのだという期待に満ちた眼差しが覗える。
「はじめまして、今日一日お世話になります、写真家をしてる月島渉です。どうぞよろしくね」
小さく首を傾け満面の笑みを浮かべた渉さんに、部員全員がどよめいた。悲鳴に似た声を上げる子もいて、そのざわめきはなかなか収まりそうにもない。ほんの少しでも写真に関わっていれば、渉さんの名前を知らないなんて人はいないだろう。しかもメディアには一切顔を出したこともない謎めいた有名人だ。
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