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第641話 夏日 17-3

 なるほどそういう理由だったのかと納得して、改めて渉さんを尊敬の念で見つめてしまう。  そういえば僕が渉さんと出会ったのも高校生の時だ。いま同じ年頃のみんなを見ていると、なんとなくその頃の感覚を思い出してわくわくした気持ちになる。 「よーし、じゃあ今日も暑いので水分補給は忘れずに! あっちにある一番左のクーラーボックスにドリンク入ってるから各自持っていってね。それと弁当持参してきたと思うけど、持ち歩くと痛むだろうから、ドリンク隣にドライアイスが入ったクーラーボックスあるから、袋に各自名前を書いて入れておいて」 「あ、ごめん。もう一個いい?」  撮影準備にかかろうと指示を出し始めた片平を遮って、慌てた様子で渉さんが人差し指を顔の前に持ち上げる。そんな渉さんの様子に目を瞬かせながら首を傾げたが、片平はまた皆みんなに集合をかける。 「ごめんねぇ、大したことじゃないんだけど。俺のことは渉って呼んでもらえるかな? 名前を統一してもらえるとフルネームがバレないので」  確かに些細なことだが、言われてみればその通りだ。皆一様に感嘆の声と了承の声を上げた。 「あずみちゃんもよろしくね」 「あ、はい」  ふいに振り返られた片平は少し驚いたように肩を跳ね上げて、小さく頷いた。その表情に目を細めて笑うと、渉さんは片平の頭を軽く撫でてこちらへと向かってくる。 「佐樹ちゃんはこれからどうするの?」 「あ、僕は北条先生と交代で荷物番するから、手が空いたら生徒たちを見て回るよ」 「彼氏くんはいいの?」  急に耳元で囁かれた言葉に心臓が一瞬跳ね上がる。そしてその言葉で思わず視線を藤堂へと向けてしまった。  視線の先の藤堂は写真部の女子たちに囲まれ困ったように笑っている。被写体にしたくなるのも当然か。髪型や眼鏡はいつも学校でしているのと変わらないが、やはり私服になるとぐんと大人っぽくなる。

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