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第642話 夏日 17-4

 峰岸同様、シャツにデニムにスニーカーというシンプルな服装だが、やけに目立つ。これは贔屓目ではないと思う。 「モテモテだね」 「い、いつものことだから」 「ふぅん」  意味ありげに相槌を打った渉さんは子供をあやすみたいに僕の髪に触れる。そして俯きがちな僕の髪に口づけを落とした。 「渉さーん」 「はーい」  驚いて顔を上げた時には、渉さんは写真部の生徒たちに呼ばれ駆け出していった。髪に残された感触がなんだかくすぐったくって、触れられた場所をいじっていると、ふいに視線を感じる。その視線に顔を上げれば、こちらを見ている藤堂のものと重なった。まっすぐな視線に射止められ、顔が一気に熱くなる。それが恥ずかしくて慌てて俯いたら、しばらくして人が近づいてくる気配を感じた。 「西岡先生」  そして聞こえてきた声にさらに動揺してしまう。けれど生徒やほかの先生もいる場所でこれ以上うろたえるわけにはいかない。平常心、平常心と心の中で何度も呟きながら、僕を見つめている藤堂の顔を見上げた。 「どうした?」 「いえ、どうしたってわけじゃないんですけど」  困ったような笑みを浮かべる藤堂の表情を見て、さっきの場面を見られていたんだと気がついた。しかしここで言い訳するのもなにかおかしい。じっと藤堂を見つめて考えを巡らせていると、ふっと視線が外れる。急にそらされた視線に戸惑い、視線の先を追いかけると小さくため息をつかれた。 「えっと、怒ってるか?」 「怒ってません。あんまりそんな風に見ないでください」 「そんな風に?」  疑問符を浮かべて首を傾げる僕から視線をそらしたまま、口元を片手で覆い藤堂は顔を俯ける。そして微かに見えた耳が赤い。けれどますます意味がわからなくて、つい藤堂の視線を追いかけてしまう。けれど一向に視線が合うことはなかった。

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