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第644話 夏日 18-2
今日一日、藤堂がたくさん笑ってくれたらいいなと思いながら、走り去る背中にひらひらと手を振る。そして僕は集合場所である木製のテーブルとベンチがある場所へと移動した。
しかしなに気なく木陰になっているベンチの端っこに座ると、ふいに人の気配を感じて驚きのあまり肩を跳ね上げてしまった。
「びっくりした。瀬名くんか」
気配を振り返れば、大きな木にもたれて腕組みしながら立っている瀬名くんがいる。
「こっち座れば?」
「いや、いいっす。ここにいると日陰なんで」
「そっか」
元々が寡黙なのだろうか。会話が続かず僕はまっすぐ前を見つめた。目の前には藤堂たちや何人かの生徒たちと渉さんの姿が見える。無邪気に笑っている渉さんは、ほかの生徒たちよりずっと子供みたいでキラキラしていた。あんな笑顔は久しぶりに見たかもしれない。
「あんな顔して笑うんだ」
「え?」
ぽつりと呟かれた瀬名くんの独り言に思わず反応してしまった。そして彼の視線の先にある笑顔を見て、ほんの少し胸の奥に湧いた好奇心が言葉を紡いでしまう。
「渉さん、瀬名くんの前では笑わないのか?」
「……あんな風には笑わないっすねぇ。いっつも作り物の笑みとか、怒ってるとか、不機嫌そうな顔ばっかですね」
「でも僕は逆に、あんなに怒ったり拗ねたりする渉さんは初めて見たかも」
あんまりにも寂しそうに話すから、ついお節介をしたくなってしまった。けれど言った言葉は嘘じゃなくて。ここに到着するまでの車の中で、本当に珍しいものを見たと思った。僕の知っている渉さんはいつも笑っていて、滅多に怒ることもなくて、優しくて心配性で過保護な人。だからいつも見ている渉さんより、あれが本当の渉さんなんじゃないかと思えた。
「瀬名くんにはすごく気を許してるんじゃないか? あ、車だって、いままでは他人に自分の車を運転させるのを嫌がるような人だったし」
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